「越境学習」で若手が変わる─エクシング×レコチョクの挑戦とは
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課題背景
若手社員が業務や研修に受け身になってしまうなど、積極性や事業に対する主体性・当事者意識が芽生える機会を持ちにくいことが、共通の課題だった。また、職種間での交流が少なく、事業全体を広く見る視点が持ちにくいことにも課題があった。協業関係にある2社で、若手社員育成に取り組むことで、それらを解決する糸口を探っていた。
成果
合同研修をおこなうことでお互いに刺激をしあい、積極的に発言をするなど、主体性が発揮できていた。研修を通じて自分の意見を発言することに自信を得たことで、日常の業務においても積極的に発言しようとする姿勢が続いている。加えて自社のことを他社のメンバーに説明する過程で、自社全体への理解を深めることもできた。お互いの強みを活かし新しい価値を生むという協業関係において、事業全体の理解ができたことで、協業関係がより深まる可能性に期待をしている。
昨今、若手社員の育成に悩む企業は少なくありません。モチベーションの維持や主体性の引き出し方、視野の広げ方……。その解決に繋がりうる一手として現在、「越境学習」が注目されています。
越境学習とは、社員が自社・組織の枠を超えて異なる組織や人材と交わることで、自分や自社の「当たり前」を見直す学びの機会を得ること。通常の研修では得られない刺激や気付きをもたらす手法として効果が期待されています。
今回はマイナビとして越境学習を研修に取り入れた事例となった、株式会社エクシング様と株式会社レコチョク様の合同マーケティング研修について、両社の人材育成ご担当者、事業責任者にお話を伺いました。
越境学習による「思いもよらない」成果もあったようです。
共通の課題解決へ 協業関係をより深める越境学習への期待
エクシング様とレコチョク様は、もともと協業関係にあるとお伺いしています。合同での若手向け研修を実施するに至った経緯をまずはお聞かせください。
伊藤 智也さん
(以下、伊藤)
エクシングはカラオケ事業、レコチョクは音楽配信事業と、同じ音楽業界に属している縁もあってお互いの強みを活かし合う協業関係にあります。
そうした交流の中でトップ同士が会う機会もあるのですが、「若手がなかなか定着しない」「新卒採用も厳しくなってきている」といった人材育成に関する共通の課題意識が自然と話題になりました。そこから、「それぞれの企業が抱える若手社員の育成課題に対し、一緒に取り組めることがあるのではないか」という流れで、この研修の構想が立ち上がったのが発端です。
松本 秀雅さん
(以下、松本)
今やどの企業でも新卒採用には苦労しているでしょうし、人材の流動性も高まる中で定着に関する悩みも持っていると思います。その中で、同じ音楽業界で協業関係にある我々で越境学習の機会を持てれば、なにか新しい刺激をもたらせるのでは? と考えました。
それぞれ、具体的にどのような課題を持っていらしたのでしょうか?
高津 文花さん
(以下、高津)
当社の課題は、部門・部署数が多いことから若手が長期間、各部署で最年少メンバーのままになっており、積極性や事業に対する主体性・当事者意識が芽生える機会を持ちにくいことでした。
社内でも研修はしていますが、受け身になってしまうことも多く……。これからの会社を支えていく若手社員が自らの主体性を発揮し、成長のきっかけを掴む新しい刺激が欲しいと思っていたんです。
川嶋 絵美さん
(以下、川嶋)
当社は配信事業を営むテクノロジー企業でもあることから、社内がエンジニア職とビジネス職に大きく二分されており、両者の交流が少ないことが懸念でした。その影響で、ビジネス全体を広く見る視点が持ちにくいのでは? と考えていたのです。
実際、社内でエンジニア職とビジネス職が交流する機会は限られていたので、越境学習によってエクシングさんとの交流だけでなく、社内同士の交流も図りたいという意図もありました。
なるほど。もともとの協業関係、そして環境や具体的な課題は違えど共通して抱えていらっしゃった若手社員育成の悩み。それらを解決する糸口にしたかった、と。
はい。お互いの悩みを話し合っている中で「それぞれ課題は違っても、同年代同士である若手社員の交流を図りながら研修をおこなえば、なにかが変わるんじゃないか」と自然な流れで越境学習の実現に向けて動き出しました。
協業関係というのは、単に同じ事業を共同でおこなうというだけのものではありません。お互いの強みを活かし、新しい価値を生むことです。その意義深さ、事業全体にとっての重要性を若い世代に理解してもらえれば、これから両社の協業関係はより深まるだろう、という狙いもありましたね。
若手の「自分ごと化」を促す 合同研修の設計と現場の工夫
越境学習を実現するにあたり、今回の研修プログラムはどのように設計されたのでしょうか?
テーマは、マイナビさんとも協議の上で検討を重ね、協業関係を活かすことのできる「新規事業の企画・立案」としました。
参加者は当社(エクシング)とレコチョクさんからそれぞれ6名ずつ、計12名を3チームに分けました。プログラムは、マーケティングの基礎を学び、自社・他社の分析を踏まえて、チームで新規事業のアイデアをまとめていくものでした。協業についての深い理解を促進し、レコチョクさんの抱えていらっしゃった職種の壁を解消するため、異職種混成の3チームに分けたところが1つのポイントです。
そのチームで約4か月間、定期的に集まりながらフェーズごとに学びと実践を繰り返し、最終日の社長プレゼンに向けて新規事業のアイデアを練っていただきました。
なるほど。ここまでお伺いしてきた課題に対してダイレクトに効果のありそうな設計ですね。実際、研修や報告会の現場を見られてどうでしたか?
当社の若手社員が社内研修に対して主体性を持ちにくいという課題を解消する、濃密な設計だったと思います。誰ひとりとして「誰かがやるだろう」と他人事にせず、積極的に研修に関わっていたのが印象的でした。
普段は社内での交流がないエンジニア職とビジネス職が議論を重ね、時にはぶつかりながらも1つの課題に取り組んでいる姿が心に残っています。そこへさらに、エクシングさんの若手社員もいることでよりエンジンに火が点いているようでしたね。
組織構造上の違いもあり、レコチョクさんは当社と比べて社員の職級が上がるのが早い傾向にあります。当社の若手から見ると「同年代なのに、レコチョクではこんな責任ある仕事を任されているのか……」という驚きもあったようです。それを乗り越え「私だってできる」と奮起してくれたんじゃないかなと思いますね。
そうしたモチベーションを形作った大きなきっかけの1つが、研修前におこなったキックオフだったと伺っています。
そうでしたね。
カジュアルな交流会もおこなって関係構築をした上で、両社の社長からもメッセージを送り、私たち(経営層・人事)が本気であることをしっかりと伝えられたのもよかったと思います。チームで本気になって課題に取り組むためのいいスタートを切れました。また、最終日には社長プレゼンも控えていましたので、彼らも本気になれたのでしょう。
しかし、そこまでしっかりしていると、逆に萎縮することもありそうですが……
そうですね。他社の方との合同研修ということで緊張もあるだろうと思い、マイナビさんからは受講生の言葉を引き出して、肯定的なフィードバックで伸ばしてくださる講師をおすすめしていただきました。
実際、業務の現場では先輩や上司から厳しいフィードバックを送られることも多く、それが若手の主体性・積極性を抑えてしまっている面があります。今回は、適切な講師の方を選定していただいたおかげで、そうした不安を払拭できる雰囲気作りができましたね。
結果、普段なかなか会議や議論の場で発言の機会がない若手社員が「発言してもいいんだ」と安心できたのではないでしょうか。
これは本当に効果的だったと思います。普段会議の場でなかなか発言できない若手社員も、研修の中では積極的に発言をして場をリードする場面もあり「こんな一面もあったのか」と、驚きました。
研修を通じて変化のあった若手社員 当事者意識と視野の拡がり
実際に4か月の研修を終えて、参加した若手社員にどのような変化がありましたか?
先ほど、研修の中で積極的に発言していることに驚いたとお話ししましたが、もっと驚いたのは、そのスタイルが研修後も続いたことです。
その背景には、研修で「若手でも発言していいんだ」という自信を得たのと同時に、レコチョクさんとの合同研修を通じて自社の事業に対する解像度が上がったことがあると思います。自分の会社のことは「当たり前」すぎて普段は客観視する機会がありませんが、レコチョクさんの若手の皆さんとの交流を経て自社の強みや、改善すべきことが見えてきたのかもしれませんね。
ぜひ次世代にとっての「ロールモデル」になってほしいと思っています。
そうですね。いわゆる「ビジネス視点」というのでしょうか。研修中も社外秘情報や機密情報について「これって、どこまで研修の場で話していいのでしょうか?」と質問を受けたりしました。これは、当社の持つビジネスの核となる強みを意識できるようになった結果だと思います。
自社内での研修では決して身につけることのできない視点ですよね。
加えて、自社のことを他社のメンバーに説明する過程で「自分の部署、自分の仕事のことしか話せない」ことに気付く参加者もいました。そこで「他部署ではなにをやっているんだろう?」と自ら調べたり、周囲に聞いたりして、自社全体への理解が深まっていったようです。それがつまり、松本の言う「ビジネス視点」が育ったということなのでしょう。
実際、研修後に異動したり昇進したりした社員もいましたが、新しい役割で仕事を進める中でこれまで以上に積極性を発揮しているようです。研修を通じて、自分の考えをしっかり声に出すことに前向きになれて、主体性も育ったのだろうと思います。
そしてなにより、ほとんどの参加者が「楽しかった」と感想を述べたことも嬉しかったですね。社内の研修ではあまり起こらないことで、期待したとおりに「新しい刺激」があったのだと思います。
これは伊藤さんとも話していたのですが、協業というのは、単に共同で事業をおこなうというだけではないんです。1つのゴールを共有し、役割分担をしながらチームを組んで走っていくことであり、単に「一緒に一つの事業をおこなう」以上の、深い繋がりと理解が必要となります。そして、それだけに組織へ与える影響も大きい。
そのことを体感的に理解できたというのが、もっとも大きい成果ではないでしょうか。
そうですね。これから10年先、20年先にレコチョクさんと当社との関係がより深まる布石を置けた、と感じています。
繋がりを絶やさず、次へ。 今後の展望とマイナビに期待すること
長期的な視点に立った、より深い協業への「布石」という言葉をいただきました。今後もこの越境学習は続けていきたいですか?
今回の取り組みを「一度きりのイベント」にはしたくないという思いはあります。研修の参加者同士は、今でも会社・部署の垣根を越えて仲良くしているようですので、もしもう一度同じメンバーで研修をおこなったら、次はどんな変化があるだろう? という興味はありますね。
そうですね。研修で深めた事業理解の知見を活用しながら通常業務を重ね、さらに成長した姿で再集結したら、また新しい視点が生まれるんじゃないかなと思います。
これから、参加するメンバーの職種や年次を変えながら恒例の研修となったらおもしろいでしょうね。社内のいたるところに自社の事業と「協業の意味」を深く理解した若手が点在し、組織全体を引き上げていくようなイメージが持てれば最高です。
その上で、これからマイナビに期待することについても聞かせてください。
今回、マイナビさんに研修の設計と実施を依頼したのは、当社でもともと他の研修をマイナビさんに依頼していた背景がありましたが、期待以上の成果を上げていただいたと思います。
これからも、若手社員の成長のためにいろいろご協力いただきたいです。
当社ではマイナビさんで新卒採用をしており、その中で大学生や若手社員のインサイトについて深い理解があること、課題への多様なアプローチを持っていることは実感していましたが、それを研修という形でも実感できました。
最後に、松本さま、伊藤さまから今後のお取り組みの拡がりに対する期待をお伺いしたいです。
また、数年後に同じメンバーで越境学習の機会を持ったら良い流れが生まれるのではないかと考えています。5年後、10年後にある程度の職位になってからもう一度集まれば、そこからさらに両社の良い関係が続いていくのではないでしょうか。
私も、この縁を続けていくことには大きな価値があると思います。そして、今回のメンバーよりも下の世代で同じように越境学習の機会を持っていけば、将来にわたる協業関係にきっと良いインパクトをもたらしてくれるだろうという期待感もあります。ぜひまたご一緒したいですね。
越境学習は「点」を「線」に変える第一歩
エクシングとレコチョク、両社の若手社員が垣根を越えて学び合った今回の越境学習。新規事業のアイデアを生み出すという表面的な成果にとどまらず、当事者意識の芽生えや視野の拡大、そして協業の本質を体感的に理解するという、より深い成長の機会となりました。
この取り組みは、単なる研修の枠を超え、若手社員が主体性を育み、自社や自分の役割をあらためて見つめ直すきっかけとなりました。一過性ではなく、継続的に越境と対話と学びを重ねていくこと──それこそが、これからの若手社員育成に求められる姿勢なのかもしれません。
越境学習の場で築かれた関係性と学びが、やがて組織全体の力を底上げする原動力となる。その第一歩を踏み出した2社の挑戦は、若手社員の育成に課題を抱える多くの企業にとっても大きな示唆を与えてくれそうです。
〈プロフィール〉
伊藤 智也 さん
1996年入社。うたスキ、みるハコ、X PARK(エクスパーク)などの新サービスを企画・起ち上げ、現在はJOYSOUNDプラットフォームサービス責任者として事業を牽引。
高津 文花 さん
営業推進部にてブランド訴求・店舗集客施策の企画・運営に従事。その後、人事部に異動し、教育領域(新卒採用・研修・eラーニングなど)を担当。
松本 秀雅 さん
映画会社、インターネットサービス企業を経てレコチョクへ。一貫して、権利コンテンツとネット技術を活用した新規事業の創出に取り組む。レコチョクでは新規事業推進を主導、音楽業界への貢献を追求。
川嶋 絵美 さん
中途でレコチョク入社、主に人事領域を網羅的に経験、現在は社員の働く価値をデザインするという部門方針に基づき、プロジェクトや働き方施策や研修、労務など幅広く取り組む。
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